相続登記・住所変更登記の義務化に向けて改正法が成立しました。
令和3年4月21日、所有者不明土地問題の解消に向け、参議院本会議において「民法等の一部を改正する法律案」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律案」が全会一致で可決・成立しました。
現在、相続登記は義務ではなく、費用もかかるため、相続人が多く遺産分割協議が大変な場合や、利用価値の低い不動産の場合など、相続登記がされず放置されてしまうケースが多々あります。
相続登記が長年にわたり放置されると、その間に相続人が亡くなり、何代にもわたり相続が発生することとなり、登記簿を見てもだれが所有者なのか分からない「所有者不明土地」が生じることになってしまいます。
「所有者不明土地」は九州の面積に相当します。
「所有者不明土地」とは、所有者台帳(不動産登記簿等)から、所有者が直ちに判明しない、又は、判明しても所有者に連絡がつかない土地のことを指します。
平成29年12月の報告では、「推計で九州本島の面積に相当する土地が所有者不明」と公表されました。
これは、国土交通省が行った平成28年度地籍調査において調査された563市区町村、約62万筆のうち、登記簿上の所有者の所在が不明だった土地が20.1%あったことから、この数字を日本全国に当てはめて、九州本島の面積に相当する土地が所有者不明という公表につながったものです。
このうち、「相続登記未了が原因であるもの」は約66.7%、「住所変更登記が未了であるもの」は約32.4%ありました。
しかし、この土地の中には住民票や戸籍等による調査を別途すれば所有者が判明するケースも多く、対象土地の全てが直ちに問題というわけではありません。
本改正により相続登記、住所変更登記が義務化されます。
これまで政府は、所有者不明土地問題の解消に向け、民法・不動産登記法などの改正を進めてきました。そして、令和3年4月21日、参議院本会議において「民法等の一部を改正する法律案」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律案」が全会一致で可決・成立しました。
この改正には、相続登記の義務化、相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)の創設、住所変更登記の義務化、相続登記・住所変更登記の義務違反の場合の過料の制裁などが盛り込まれています。
この改正により、相続登記の義務化や相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)は3年内に、住所変更登記の義務化は5年内に施行される予定です。
改正のポイントをまとめてみました。
令和3年4月現在でわかる範囲となりますが、改正ポイントをまとめてみます。
- 相続登記が義務化される。
- 相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)が創設される。
- 住所変更登記が義務化になる。
- 相続登記や住所変更登記を正当な理由なく怠ると過料に処せられる場合がある。
- 所有権の登記名義人が法人の場合に、「会社法人等番号」が新たに登記事項となる。
- 「所有不動産記録証明書」交付の制度が創設される。
1.相続登記が義務化される
相続の開始があったことを知り、その所有権の取得を知った日から3年以内に、相続による所有権の移転登記を申請しなければならないものとされ、相続登記が義務化されます。
相続人への遺贈により所有権を取得した場合も同様に、3年以内に相続による所有権の移転登記を申請しなければならなくなります。
このほか、先に法定相続分による相続登記がなされ、その後で遺産分割協議をして法定相続分を超えて所有権を取得した相続人がいる場合、この相続人は遺産分割の日から3年以内に所有権の移転登記を申請しなければならなくなります。
正当な理由がないのに、この期間内に相続登記の申請を怠った場合、最高で10万円以下の過料に処せられます。 この相続登記の義務化は、公布の日から3年内に施行される予定です。
2.相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)が創設される
この改正によって新しくできる制度で、相続による所有権移転登記の義務を負うものが、相続が開始した旨、および自分が相続人である旨を登記官に申し出ることができるようになります。
この相続人である旨の申し出がされると、申出をした者の住所・氏名等を登記官が職権で登記してくれます。
この相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)は、複数の相続人がいる場合であっても、1人から申し出をすることができ、申し出をした相続人は上記1.の「相続登記の義務」を果たしたものとみなされるため、過料の制裁を回避することができます。
これにより、相続人が多く遺産分割協議がまとまらないような場合には、相続人申告登記(相続人である旨の申出)をすることで、相続登記の義務を一旦回避することができます。
この相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)は、公布の日から3年内に施行される 予定です。
3.住所・氏名等の変更登記が義務化になる
相続登記だけでなく、転居や本店移転による住所変更登記や、婚姻や商号変更があった場合の氏名・名称の変更登記も義務付けの対象となります。
この改正により、所有権の登記名義人の住所・氏名等について変更があった場合は、2年以内に変更の登記を申請しなければならなくなります。
上記に加えて、登記官が住民基本台帳ネットワークや会社法人等番号から、所有者の住所・氏名等についての変更があったことを把握したときは、職権で住所・氏名等の変更登記をすることができるようになります。ただし、所有者が個人(自然人)の場合は、本人からの申し出があったときにのみ職権での住所・氏名等の変更登記が可能となります。
正当な理由がないのに、この期間内に住所・氏名等について変更の申請を怠った場合、最高で5万円以下の過料に処せられます。
この住所・氏名等の変更登記の義務化は、公布の日から5年内に施行される予定です。
4.相続登記や住所変更登記を正当な理由なく怠ると過料に処せられる場合がある
相続登記の場合は、相続の開始があったことを知り、その所有権の取得を知った日から3年以内に、相続による所有権の移転登記を申請しなければならないものとされ、正当な理由がないのに、この期間内に相続登記の申請を怠った場合、最高で10万円以下の過料に処せられます。
また、住所・氏名等の変更登記の場合は、所有権の登記名義人の住所・氏名等について変更があった場合、2年以内に変更の登記を申請しなければならないとされ、正当な理由がないのに、この期間内に住所・氏名等について変更の申請を怠った場合、最高で5万円以下の過料に処せられます。
5.所有権の登記名義人が法人の場合に、「会社法人等番号」が新たに登記事項となる
これまでは、法人が所有権の登記名義人だった場合、住所(会社の本店)、名称(会社の商号)が登記事項事項とされてきましたが、改正後はこれらに加えて「会社法人等番号」も登記事項となります。
この会社法人等番号を登記事項とする改正は、公布の日から3年内に施行される予定です。
6.「所有不動産記録証明書」(所有不動産の一覧を記載した証明書)交付の制度が創設される
不動産の所有者が、登記官に対して、自らが所有する不動産についての一覧を記載した証明書(所有不動産記録証明書)を請求できる制度が創設されます。
所有権の登記名義人が亡くなっている場合は、所有者の相続人から証明書の交付を請求することができます。
これまで、不動産所在地の各市区町村で、固定資産税評価証明書や名寄を取得して、所有する不動産を調べる必要がありましたが、法務局で「所有不動産記録証明書」を取得することで自らが所有する不動産の一覧を確認することができるようになります。
旧住所と新住所など、登記されている住所の記載が複数の不動産で異なる場合に、どこまで正確に証明書の取得ができるかが、これからの課題となると思われます。今のところ、証明書の様式や記載事項などは決まっておらず、これから法務省令で定められる予定です。
この「所有不動産記録証明書」の交付の制度は、公布の日から3年内に施行される予定です。
相続登記や住所・氏名変更の登記は早め早めに手続きされることをおすすめします。
この相続登記・住所変更登記の義務化は、既に相続が発生し、相続登記が放置されている場合や、既に住所・氏名等の変更があり変更登記が放置されている場合にも適用されます。
連絡が取れない相続人がいる、相続人が多くて手続きが面倒など、相続登記が放置されるのには何らかの事情があろうかと思いますが、速やかに相続登記や住所・氏名の変更登記の手続きをされることをお勧めします。
相続に関する法律は複雑で、理解するのも難しいことがあります。より詳しく知りたい・聞いてみたいということがございましたら、お気軽に当事務所、またはお近くの司法書士事務所へお気軽にお問い合わせください。