知らないうちに借金を相続していた!?相続における3ヶ月ルールとは
「相続なんて資産家の人の話でしょう?」
「その時になったら考えればよいこと」
相続という言葉を聞いて、たいていの方はきっとそんな風に思われるのではないでしょうか。
それも無理はありません。メディアでも「相続」を「争族」と表現し、資産家の相続トラブルを取り上げるものが大半です。ましてや今ここで「相続における3か月ルールをご存知ですか?」と問いかけても、一般の方々にはなんのことか分からないのが当然だと思います。
ブログタイトルは何やら穏やかではない表現になっていますが、実はこの「相続における3か月ルール」を知らないと、このタイトル通りのことが起こり得るのです。
相続の対象になるのは「プラスの資産」だけではなく、「マイナスの負債」も!
相続が発生すると、被相続人(=亡くなった人)の「プラスの資産」のほか、借金などの「マイナスの負債」があればそれもあわせて相続の対象となってしまいます。前述の「争族」という表現に代表されるように、一般的に相続というとプラスの資産についてだけ語られるように思われており、そこが盲点となって結果的に負債相続の問題に繋がっています。
また「借金はなさそうだから大丈夫」と思っていても、実は誰かの連帯保証人になっていたなど、誰も知らなかったまさかの負債が存在している可能性も捨てきれません。
相続における3ヶ月ルールとは?
そういった相続について「引き継ぐのか放棄するのか」を相続人が選択できる期間があります。それが「3ヶ月」です。いったい、いつから3ヶ月なのでしょうか。民法にはこう規定されています。
民法915条 第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
上記条文の「知った時」とは、以前は「被相続人(=亡くなった人)の死亡を知ったときから」というのが判例・通説でしたが、その後、判例の変更があり「被相続人の死亡を知り、かつ、自己が法律上相続人となった事実を合わせて知ったとき」が3ケ月の熟慮期間の起算点であると改められました。例えば、祖父の死亡の事実は知っていたけど、自分が祖父の子として養子縁組している事実を知らなかった場合、養子縁組の事実を知った時が3ケ月の起算点となります。
3ヶ月以内なら相続手続きで3つの方法が選択できる
被相続人の死亡を知ってから3ヶ月以内なら、相続手続きは以下の3つの方法から選択できます。
- 「単純承認」・・・プラスの資産もマイナスの負債もすべて相続することとなります。明らかにプラスの資産のほうが多い場合に選択するのが一般的ですが、相続する財産の価格によっては相続税が課されるのでその対策が必要です。
- 「相続放棄」・・・プラスの資産もマイナスの負債もすべて放棄することとなります。プラスの資産を何も受け取れない代わりに、借金などのマイナスの負債を背負うリスクがなくなります。プラスの資産も相続できないということになるので、例えば自宅が持家であれば自宅を相続できないことになります。
- 「限定承認」・・・「単純承認」と「相続放棄」の間に位置するような手続きで、相続したプラスの資産の中から負債を弁済し、それでもなおプラスの資産の余剰が発生すれば相続することができます。この手続きを選択するシチュエーションとしては、財産がプラスとマイナスどちらが多いのかがはっきり分からない場面などが想定されますが、手続きが複雑なため「限定承認」を選択する人はかなり少ないのが現状です。最高裁司法統計・国税庁統計資料によると、2017年の相続放棄の件数は約20万件あるのに対し、同じ年の限定承認の件数は約700件にとどまっています。
3ヶ月を過ぎたらどうなるのか?
仮に「被相続人の死亡を知った時から3ヶ月」を過ぎてしまった場合、自動的に上記1.の「単純承認」が選択されることとなってしまいます。これも民法に規定されています。
第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
第2項
相続人が第915条第1項の期間【3箇月】内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
この条文によってプラスの資産のほか、もしマイナスの負債があればそれもすべて相続することとなってしまいます。これにより「知らない間に借金を相続していた」ということが起こり得てしまいます。
このほかにも故人の遺産の一部であってもすでに処分している場合などは、たとえ他の2つの手続きを検討中であったとしても単純承認したものと扱われるので注意が必要です。
ただし、3ヶ月を過ぎてしまったら最後、解決策がゼロというわけではありません。マイナスの負債を含む相続財産が全く存在しないと信じた事などの一定の事情がある場合、3ケ月の起算点の例外が認められる場合もあります。もしも大きなマイナス負債が存在し、やむを得ず3ヶ月を過ぎてしまった場合は、家庭裁判所への審査に強いその道の専門家に依頼をすることをおすすめします。