似て非なる漢字「己」「已」「巳」について

法務局に登記を申請しようと準備をしている際に、登記事項証明書の氏名の漢字と、印鑑証明書の漢字が違っているということが稀にあります。

例えば、登記事項証明書の名前が「己」で記載されているのに、印鑑証明書の名前が「巳」で記載されているといったものが代表的な例となります。

これらの漢字は、形は非常に似ているのですが、読み方も意味も異なる全く別の漢字です。

そのまま印鑑証明書を添付した場合、更正登記は必要となるか?

上記の例でいうと「巳」と記載された印鑑証明書を添付しても、登記事項証明書の「己」の人物とは別人と判断されてしまうため、登記事項証明書の「己」を「巳」の字に更正する登記手続きが必要になりそうなのですが、この「己」「已」「巳」について記載された登記研究が以前にありましたのでご紹介します。

登記研究461号(昭和61年6月号)

〔要旨〕:登記名義人の氏名が昭和58年3月22日民二第1501号民事局長通達による「誤字・俗字一覧表」中の誤字又は俗字で記載されている場合には、登記名義人の表示を正字に更正する必要はない。
問:登記簿上の氏名の1字が「巳」となっているが、印鑑証明書では「己」となっていても所有権登記名義人の表示更正登記は不要と思いますがいかがでしょうか。
答:御意見のとおりと考えます。

登記研究461号(昭和61年6月号)
  • 「巳」と「己」は同一性が認められるので、わざわざ「巳」を「己」に更正する登記手続きをしなくても、「己」の印鑑証明書で手続きOK!という意味です。

登記研究549号(平成5年10月号)

〔要旨〕:登記名義人の氏名に「已」の文字が記載されている場合において「己」を正字として登記を申請するときは、同一人と認められるときは登記名義人の表示の更正を要しない。
問:登記簿上の登記名義人の氏名に「已」の文字が記載されている場合に、「己」を正字として登記の申請をするときは、「已」と「己」とは誤字俗字・正字一覧表(平成2年11月26日付け民三第5414号民事局第三課長依命通知参照)において誤字俗字と正字の関係に有るものの、同表において◉印が付され、別字(それぞれ正字)であるとされているため登記名義人の表示の更正を要するものと考えますが、いかがでしょうか。
答:登記名義人と登記申請人とが同一人と認められる場合は、登記名義人の表示の更正を要しないものと考えます。

登記研究549号(平成5年10月号)
  • 「已」と「己」は同一性が認められるので、同一人と認められるときに、わざわざ「已」を「己」に更正する登記手続きをしなくても手続きOK!という意味です。

2010年の通達により新しくなった「誤字俗字・正字一覧表」から己関係の記載が消えた…

私たちが、誤字・俗字・正字の関係を調べる時によく使う「誤字俗字・正字一覧表」ですが、度々新しいものに差し代わっています。
上記の先例が出た頃の「誤字俗字・正字一覧表」には、「常用漢字に関するもの:コ」の上段の欄(正字)に「己」があり、下段に◉印付で「已」の字が記載されていました。
また、「人名漢字に関するもの:巳部」の上段の欄(正字)に「巳」があり、下段に◉印付で「已」と「己」の字が記載されていました。

  • 「◉印」は、上段の正字の文字とは「別字の正字」であるが、上段の正字の誤字として記載されることが多いため、本人から申し出があれば上段の文字に訂正することができる文字という意味です。

それが、平成22年の通達により新しくなった「誤字俗字・正字一覧表」には、(正字)「己」と「已」の関係を記載した項目、(正字)「巳」と「已」および「己」の関係を記載した項目がなくなりました。

結局は法務局で事前に照会したほうが無難

これにより、更正登記が不要だった以前の登記先例の取扱いが、現在どうなっているのか不明であるため、このような事案が出てきたら、法務局で事前に照会したうえで申請したほうが一番良いと思われます。